静かにそっと、おやすみなさい。


少し肌寒い朝。
自然と開いた目蓋に、いつも通りの景色が写る。
昨夜と何ら変わらない、私の小さな部屋。
ただ、心地よい静寂だけが染み渡っている。

私はカーテンの隙間から漏れる光に気がついた。
いつもより透明度が高い。
窓の向こうはさぞかし冷たいのだろう。

「まだ、今日を始めたくない。」
珍しくそんなことを思った。


まだ間に合う。
私はもう一度あたたかい布団を肩までひっぱりあげる。
目蓋を閉じてしまえばこっちのもの。
全て夢にしてしまえばいい。

でも、朝は思った以上にせっかち。
もう少しぐらい待ってくれたっていいのに。
机の上に置かれた赤い時計がチクタクと音を鳴らし始めた。
ひどいなぁ、まったく。

天井に向かって両手を伸ばすと、
左肩がゴリッと鈍い音を鳴らした。


大学生になってから、
私は随分ワガママになったように思う。
いや、自惚れるようになったと言う方が正しいかもしれない。

いつからか、自分の価値判断を他人に任せるようになった。
そんなこと本当は無意味なのに。
私は自分で自分の価値を計ることをやめてしまった。

なんでだろう。いつからだろう。
上手く思い出すことができない。

高1の時に立てた「自分−肩書き=?」の公式は
もう私にとって過去のものになってしまったのだろうか。
気づけばくだらないプライドばかりが力を増している。


高3の時の私は、自分で自分を認めるために
他人に認められることを求めていた。
でも今の私は、ただ他人に認められることを求めている。

決して社会的な賞賛や、ステータスが欲しいわけではない。
ただ、近くにいる人が離れていってしまうのが恐いだけなのだ。

年を重ねるごとに、
自分がどんどんと弱っちくなっていく。
まだ20歳にもなっていないのに。
このままじゃ、30歳を迎える頃には涙腺がゆるっゆるかもしれない。
干からびちゃったらどうしよう。


時々、想像することがある。

もし今見ている景色が全部夢で、
ある日突然目覚めることができたとしたら
そこにはどんな景色が広がってるんだろうって。

迎えてくれるのはカーテンから漏れる光かもしれないし、
チクタク時を刻むせっかちな時計かもしれない。

私はそこで、いったい何を思うんだろう。

目覚めたことに喜びを感じるのか、
はたまた、もう一度布団に潜り込むのか。

分からないなぁと思いつつも、
結局私は夢の中と似たような現実を思い描いてる。
自分の想像力の乏しさに笑っちゃう。
アリスみたいなワンダーランドだっていいのに。


でも、こうも思う。

何の変哲もない寒い日の朝こそ、
私が心から望んでいるものなのかもしれないって。


自分の奥底にある想いなんて、いくら考えても分かんない。
自分の価値だって、明確に分かるわけもない。

でも、望む景色を描くことはできる。

夢と現実の区別なんて別にどうでもいいから、
見たい景色に逢いにいきたい。
そうすれば、ちょっとぐらい強くなれる気がする。
少なくとも、50歳までは干からびなくてすみそう。


もう深夜だ。
明日の朝を楽しみに。
静かにそっと、おやすみなさい。


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