「やあ、また会いましたね」


手袋が恋しい朝。
駅のホームで電車を待っていると、
反対側のホームにこんな広告を見つけた。


「やあ、また会いましたね。」
iichiko


正直、見た瞬間意味が分からなかった。

iichikoってお酒の会社だよね?
どうしてこの写真にこのことば?
この広告って一体何を伝えようとしてるんだろう?

そんなことをほんの数秒の間に考えた。
でもあまり良い答えが浮かばない。
何も奇跡を起こしてくれないわかんないの呪文
私の頭の中を何度もループしていた。


「2番線に電車が参ります」
ホームに女性の声のアナウンスが鳴り響く。
どうやらもうすぐ各停電車が到着するらしい。

あっという間に私と広告の間に電車が滑り込んできた。
キーッという大きな音をたてて、少しずつ速度を落としていく。
やがて予定停車位置ぴったりに停まると、
ガラガラの車内へのドアが開いた。


周りの人がぽろぽろと乗り込んでいく。
本当は私も乗ってしまいたかったけど、
遅刻を免れるためには次の特急電車を待つしかなかった。

鈍い音を立ててドアが閉まる。
独特な発車メロディーを奏でながら電車はゆっくりと走り始めた。
人工的な風が私の髪を強く吹き付けていく。
髪はあっという間にボサボサになった。


ようやく電車が去ると、
再び反対側のホームが見えるようになっていた。
iichikoの広告も当たり前に貼られている。

「あ……」
その瞬間、私はようやくこの広告の意味を自分なりに理解した。



「やあ、また会いましたね。」って
もしかしたらこういうことなのかもしれない。

さっき見た時は全然思わなかったのに、
今度は見た瞬間「あ、そうですね」って思ってしまった。

これが作った方の意図なのだろうか?
もちろん本当のところは分からない。
でもこの広告に再会した瞬間、
わかんないの呪文は一瞬にして頭の中から消え去った。
それどころか、さっきまで意味が分からなかった広告が
いつの間にかお気に入りの1枚になっている。

美人な女優さんや人気アイドルが笑顔を振りまく広告も良いけど、
こういう素朴で生活感のあるコピーも好きかもしれない。

ようやくやってきた特急電車に乗り込みながら
勝手な解釈に満足する大学2年生なのでした。

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